みなし贈与に注意

横浜市中区の藤原淳税理士事務所です。

税務上、債務免除や債権放棄を行う場合には、慎重な判断が必要です。

私の経験上、貸倒損失を計上する場合には、書類を多く準備して頂いております。

特に債務免除・債権放棄の論点は、実際の感覚と税務の感覚は乖離しているため、

社長と税理士の考え方には大きな溝が発生しがちな論点となります。

法人税・贈与税に影響を与える論点です。下記の内容をご覧頂ければ、概要はつかめると思います。

オーナー社長からの借入金のデメリット

今回は法人側の話ではなく事業承継が近いオーナー社長個人の相続についてです。

オーナー社長が自分の会社に対して貸付を行うのは日常的な風景かと思います。

法人の税務調査の場面では、認定利息という話になります。

以下、裁判例等々いろいろと書きますが、

結論は、仮にオーナーからの借入金を債務免除するにしても様々な税務上の検討をした上で証拠能力を高める対応が必要です。

法人への貸付金の評価方法

社長が保有している会社に対する債権は原則として元本+利息で評価されます。つまり額面評価と言えます。

これが何を意味するかと言うと、評価上は現預金と対して変わらないという事です。

会社から債権を回収できる場合には構いません。

しかし、問題は回収できそうになくても、額面評価になると思っておいた方が良いという事です。

相続税を計算する際に貸付金の評価は財産評価基本通達204で元本の価額と利息の価額との合計額によって評価されます。

ただし、もし、破産手続開始の決定があったときは、回収不能部分については、元本に含めなくても構いませんよというのが財産評価基本通達205となります。

それでは返せないから問題ない、債務免除する事になっているから問題ないとお考えでもそのお考えが大問題です。次の裁判例があります。

204  貸付金債権の評価

貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。

  • (1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
  • (2) 貸付金債権等に係る利息(208《未収法定果実の評価》に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額
財産評価基本通達

205  貸付金債権等の元本価額の範囲

前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。

  • (1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)
    • イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたときロ 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったときハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったときニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったときホ 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき
    • ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき
  • (2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
    • イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
    • ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額
  • (3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額
財産評価基本通達

東京地方裁判所平成28年(行ウ)第189号相続税更正処分等取消請求事件

結論から申し上げますと、納税者が負けています。そもそも「貸付金があるか、ないか」、「貸付金があるとしても、いくらか」が争点となりました。この会社は、今回の貸付金を含めると、かなり債務超過であり、平均的に赤字ではありました。

そもそも論の貸付金の有無については、申告書に添付する内訳書にも記載があり、残高証明書もあるという事ですので、「貸付金はありそう」という方向に大きく傾きます。

本件債権について、亡丙が生前に自らの死亡を停止期限とする債務免除の意思表示をした旨を主張する

が、同主張を裏付ける契約書などの客観的な証拠は、一切見当たらない。

債務免除をするなら、証拠が必要です。

本件相続開始時を含む事業年度である平成23年6月期以前において、金融機関から継続的に新たな融資を受けていたこと(同ウ)が認められる。また、本件相続開始時現在において、本件会社に対して会社更生手続などの法的な処理が行われていたものではない上、本件会社の平成17年6月期ないし平成23年6月期における債務超過額は、約5743万円ないし約6386万円であって、その平均は約6029万円であり(同エ)、毎期債務超過の状態が続いていたものの、金融機関に対する返済が滞っていたというような事情はうかがわれない。

東京地方裁判所平成28年(行ウ)第189号相続税更正処分等取消請求事件

つまり、銀行からは借りる事ができるし、返済もしているので、客観的事実からも破産等と同じような状況ではありません。

本件会社の資産負債等の状況

本件会社の平成17年6月期ないし平成23年6月期の資産負債等の状況

は、別紙8のとおりであり、

経常利益は、マイナス平均約83万円

売上高は、平均約1905万円、

債務超過額は、平均約6029万円

負債の金額は、平均約7254万円であり、

負債の金額のうち、本件債権は、平均約5775万円、

金融機関からの借入金は、平均約441万円であり、

同期間における負債の平均額に占める本件債権の平均額の割合は、約80%であり

(5775万円÷7254万円)、

また、同期間における負債の平均額に占める金融機関からの借入金の平均額の割合は、約6%

であった(441万円÷7254万円)(乙4、14)

会社の状況から見れば、返済が可能?とは思ってしまいますが、ハードルのレベル感がかなり違いますので、評価減はかなり困難です。それでは債務免除を書面できっちりすればOKかというと、債務免除により株価が上がりますので、株主構成によっては「みなし贈与」という論点が発生します。また、当然、債務免除(DES含む)により、多額の債務免除益が発生する可能性がありますので、欠損金の状況によっては多額の法人税等が発生します。

まとめ

仮に回収困難なオーナーからの貸付であったとしても、相続税評価が下がる事は難しいです。一方で債務免除については、証拠能力を高める必要があると共に、「みなし贈与」や「法人税等」の兼合いで適当に債務免除はできません。もう少し申し上げますと、オーナー貸付が事業承継者以外に取得されてしまうと、ややこしくなるので整理が必要です。なかなか難しい論点ですので、お困りの方はご相談ください。

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