役員退職金については、金額が大きくリスクが大きくなる割には、経営者から危ない話をよく聞く論点です。
私の経験上、M&Aや事業承継の後に、社長が残る場合、非常にこの論点に気を使います。
オペレーションが実態としてどうなるのか?
役員辞任と言っているものの、実態として会社の運営方法に変更がない場合には、何を言われるか分かりません。
この論点を軽く見ているアドバイザーも多いので、個人的にはドキドキしています。
以下が主に問題になる部分です。
- 引退して退職金を支給されている割に会社に口を出している等の退職の事実関係
- 役員退職金が税務署の基準では不相当に高額
- 役員退職金の分割払い
退職の事実関係
役員退職金は退職をしたという事実に基づいて支給をされます。
その退職により支給された金銭等は退職所得として退職所得控除や収入から退職所得控除を差引した後に1/2にするなど給与課税にはない税務上のメリットを受けます。
結果として、会社側では源泉徴収する金額が減少します。
逆を言えば、この退職という事実がない場合には、退職所得ではなく、定期同額給与でもない役員給与となりますので、非常に退職の事実は重要です。
一般的な退職であれば問題になりませんが、問題となるのは、会社に残る場合です。
時々勘違いされていて見かける危険なケースは、単に給与水準を激減させたり、代替わりの通知を取引先に送付したり、肩書を変更するなどをしている”だけの”場合です。
裁判例等を見ると雰囲気が分かりますが、純粋に事実認定になります。つまり見た目を変えた所で実質が変わりなければ、退職とはなりません。
特に親族間の事業承継や遠方の会社や業種違いの会社をM&Aなどで子会社化した際は注意が必要と私は考えています。
取締役から相談役や従業員になり給与を減少させるなどして形式を整える事は可能かもしれませんが、実態として、重要な事業上のパートに絡まざるを得ない場合には、慎重になった方が良いと考えています。
9―2―32 (役員の分掌変更等の場合の退職給与)
法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があつたことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
税務の現場で許容されやすい役員退職金の金額
基本的に功績倍率法を用いて計算します。理由としては、類似法人を抽出するのが困難なためであり、また、現場で供用されるケースが多いためです。
最終報酬月額を退職直前に上げたり、逆に大幅に引き下げられているような場合には、調整が必要です。
裁判例等により勤続年数は1年未満切り上げになっています。個別事情が強い部分ではありますが、原則として、功績倍率は3としておく事が無難です。
もっと高い功績倍率で大丈夫だったケースもあるとは思いますが、税務調査が入っていなケース等々も多いと考えています。
功績倍率法
最終報酬月額x勤続年数x功績倍率(代表取締役の功績倍率は3)
平均功績倍率法
最終報酬月額x勤続年数x類似法人の平均功績倍率※
※ 類似法人退職給与/<類似法人最終報酬月額x類似法人勤続年数>の平均値
1年あたり平均額法
類似法人退職金/類似法人勤続年数x今回退職役員の勤続年数
最高功績倍率法
最終報酬月額x勤続年数x類似法人功績倍率最高値
役員賞与(事前確定届出給与)は最終報酬月額に含まれるのか
事前確定届出給与を提出して役員賞与を出している方もいらっしゃると思います。
社会保険対策で極端に低い役員報酬を設定し、多額の役員賞与を支払う場合には御注意いただきたい部分です。
役員賞与も役員給与の一つの形ではあるので、最終報酬月額に含めるか・含められないのかという論点があります。
事前確定届出給与による役員賞与は実際に支払うか、支払われないかによって、大きく見え方が異なります。
個人的には、事前確定届出給与による事前確定届出給与は含めずに退職金の設定をしておいた方が無駄なもめごとが生じませんので良いと思います。
つまり、極端に低い役員報酬を設定するのではなく、通常の役員報酬を設定する事をおすすめします。
役員退職金の分割払い
資金繰り等の事情で役員退職金が5年以上の分割払いになりそうな場合には、要注意です。
株主総会で役員退職金の支給額を確定しているならば損金算入が通常はされます。
しかし、その役員退職金について未払残高が残った状態で長く期間経過するなどの場合には、その外観は退職年金の支給に見えます。
退職年金の損金算入時期は、株主総会等の決議日である未払金の計上時期とはなりません。退職金の財源対策は重要課題です。
(退職年金の損金算入の時期)
9―2―29 法人が退職した役員又は使用人に対して支給する退職年金は、当該年金を支給すべき時の損金の額に算入すべきものであるから、当該退職した役員又は使用人に係る年金の総額を計算して未払金等に計上した場合においても、当該未払金等に相当する金額を損金の額に算入することはできないことに留意する。
役員退職金は、たとえ役員退職慰労金規程があったとしても、株主総会決議が必要
役員退職金は取締役の報酬の一つの種類です。総枠を決めて取締役会で決める事も可能ですが、中小企業において、簡単で問題になりにくいのは、株主総会で決議してしまう方法です。
(取締役の報酬等)
第三百六十一条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち当該株式会社の募集株式(第百九十九条第一項に規定する募集株式をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
四 報酬等のうち当該株式会社の募集新株予約権(第二百三十八条第一項に規定する募集新株予約権をいう。以下この項及び第四百九条第三項において同じ。)については、当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
五 報酬等のうち次のイ又はロに掲げるものと引換えにする払込みに充てるための金銭については、当該イ又はロに定める事項
イ 当該株式会社の募集株式 取締役が引き受ける当該募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び種類ごとの数)の上限その他法務省令で定める事項
ロ 当該株式会社の募集新株予約権 取締役が引き受ける当該募集新株予約権の数の上限その他法務省令で定める事項
六 報酬等のうち金銭でないもの(当該株式会社の募集株式及び募集新株予約権を除く。)については、その具体的な内容
2 監査等委員会設置会社においては、前項各号に掲げる事項は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければならない。
3 監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、第一項の報酬等の範囲内において、監査等委員である取締役の協議によって定める。
4 第一項各号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
5 監査等委員である取締役は、株主総会において、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができる。
6 監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等について監査等委員会の意見を述べることができる。
7 次に掲げる株式会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く。以下この項において同じ。)の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議による第一項各号に掲げる事項についての定めがある場合には、当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定しなければならない。ただし、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められているときは、この限りでない。
一 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの
二 監査等委員会設置会社
会社法(平成十七年法律第八十六号)
まとめ
役員退職金については、金額が大きくリスクが大きくなる割には、危ない話をよく聞く論点です。退職金はあまり発想を豊かに頑張らずシンプルな対策を私はおすすめします。特に他人の成功事例的な話は偶然税務調査が入っていないだけだと聞き流して頂きたいです。