作成:2026年9月5日
中小企業庁「経営改善計画策定支援事業(早期経営改善計画策定支援)に関する手引き」および同「マニュアル・FAQ(Ver.8.1)」〈いずれも令和8年3月31日改訂〉、日本銀行の金融政策決定会合公表文〈2026年6月16日・7月31日〉に基づく
「金利が上がったら、うちの返済はどうなるんだろう」
「銀行から、今後の計画を出してくださいと言われた」
「資金繰り表や事業計画を作りたいが、社内に作れる人がいない」
こうした場面で使えるのが、国の早期経営改善計画策定支援(通称:Vアップ事業/バリューアップ支援事業)です。認定経営革新等支援機関である専門家といっしょに資金繰り計画などを作り、銀行に提出する取り組みで、専門家に支払う費用の3分の2(最大80万円)を国が負担します。2026年3月の改定で補助の上限が大きく上がりました。
この記事では、いくらもらえるのか・誰が使えるのか・何を作るのか・どう申請するのかを、中小企業庁の手引きとFAQの原文にあたって整理します。
この記事でわかること
- こんなときに使える(3つのケース)
- 早期経営改善計画(Vアップ事業)とは何か
- いくら補助される? 自己負担はいくら?
- 誰が使える? 使えない会社は?
- 何を作るのか(計画の中身)
- 申請から補助までの流れ
- 2026年の改定で変わったこと
- 使う前に知っておきたい落とし穴
- すでに返済がきつい場合は別の制度(405事業との違い)
- よくある質問
1. こんなときに使えます
「資金繰りが不安」「銀行への説明材料が足りない」と感じる場面は、だいたい次の3つに整理できます。ひとつでも当てはまれば、この制度の出番です。
ケース1:金利が上がって、返済負担がどうなるか分からない
日本銀行は2026年6月16日の会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.0%程度で推移するよう促す方針に変更し、7月31日の会合でもこの水準を維持しました。借入残高が大きい会社ほど、今後の返済額を先に試算しておく必要が出てきます。
ケース2:銀行から「今後の計画を出してください」と言われた
この制度で作る計画は、そのまま金融機関へ提出することが要件になっています。決算書の数字だけでなく「これからどう改善するのか」を示す資料になります。
ケース3:資金繰り表・事業計画を作りたいが、社内に作れる人がいない
認定経営革新等支援機関(税理士・中小企業診断士など)が策定を支援します。制度の目的自体が「事業者自身で計画策定や管理のPDCAサイクルを構築できるようになること」に置かれているため、作って終わりではなく、以後3年間の伴走支援がセットです。
2. 早期経営改善計画(Vアップ事業)とは? ひとことで言うと
経営が苦しくなる前の段階で、専門家といっしょに「資金繰りの見える化」をして、それを銀行に見せる制度です。国が専門家費用の3分の2を負担します。
名前が3つあってまぎらわしいので整理します
- 正式名称:経営改善計画策定支援事業(早期経営改善計画策定支援)
- 通称:Vアップ事業(バリューアップ支援事業)※2025年4月に通称が変更されました
- 旧通称:ポストコロナ持続的発展事業(ポスコロ事業)
いずれも同じ制度を指します。似た名前の「経営改善計画策定支援(405事業)」は別の制度です(違いは第9章)。
3. いくら補助される? 自己負担はいくら?
補助率は専門家に支払う費用(消費税込み)の3分の2。上限は費用の種類ごとに決まっています。
| 費用の種類 | 補助率 | 上限額 | 使える条件 |
|---|---|---|---|
| 計画策定支援費用 | 2/3 | 50万円 | — |
| 伴走支援費用 | 2/3 | 30万円 | — |
| 企業概要書の作成費用 | 2/3 | 10万円(加算) | 事業承継先の探索を行う場合 |
| 金融機関交渉費用 | 2/3 | 10万円(加算) | 経営者保証の解除に向けて取り組み、交渉に弁護士等(認定経営革新等支援機関に限る)を使う場合 |
| 合計 | 通常は80万円/加算まで使えば最大100万円 | ||
自己負担のイメージ:総額120万円なら自己負担は約40万円
専門家に支払う費用のうち3分の1が自己負担です。計画策定支援と伴走支援で総額120万円の支援を受け、費用の種類ごとの補助額がそれぞれの上限内に収まる場合、自己負担は約40万円になります。
上限を超えた部分は補助の対象外で、その分は自己負担が増えます。見積りは総額だけでなく、計画策定支援と伴走支援の内訳まで確認してください。
お金の流れ:補助金は会社に振り込まれるわけではありません
会社が支払うのは自己負担分の3分の1だけで、残りは中小企業活性化協議会が認定経営革新等支援機関へ直接支払う仕組みです。「いったん全額払って、あとで補助金が入金される」形ではありません。
4. 誰が使える? 使えない会社は?
使える事業者
- 中小企業・小規模事業者、個人事業主(産業競争力強化法2条23項の中小企業者)
- 農業・漁業など1次産業の事業者も、中小企業者に該当すれば対象
- 医療法人(常時使用する従業員が300人以下に限る)
- 無借金の会社も、決済口座を持つ金融機関等から事前相談書の発行があれば利用できます
- 税金・社会保険料の滞納があっても、当局と相談のうえ滞納解消に取り組んでいる場合等は対象となる可能性があります
使えない・対象外になるケース
- 過去にこの制度や405事業などを利用した会社(実施中を含む)。中小企業活性化協議会の収益力改善支援(金融支援あり)・プレ再生・再生支援・再チャレンジ支援も同様です。複数回の利用はできません
- 社会福祉法人、NPO法人、一般社団法人・一般財団法人、公益社団法人・公益財団法人、農事組合法人、農業協同組合、生活協同組合、LLP(有限責任事業組合)、学校法人
- 地方公共団体等からの出資比率が50%を超える中小企業者
- 創業から12か月以上の営業実績と決算がない場合(法人設立前に個人事業主として同じ事業を12か月以上行っていた場合は、確定申告書等で証明できれば対象)
- 支援する認定経営革新等支援機関が議決権の20%以上を保有している、またはその代表者が取締役を務めている会社
5. 何を作るのか(計画の中身)
手引きでは、計画に含めるものとして次が挙げられています。
- ビジネスモデル俯瞰図(商流・収益の仕組みを1枚にする)
- 経営課題の内容と、解決に向けた基本方針
- 実施計画(アクションプラン)および伴走支援計画
- 実態貸借対照表、損益計算書等の計数計画
- 資金繰表(実績・計画)
実態貸借対照表(実態B/S)とは
帳簿上の数字ではなく、実態に合わせて資産・負債を見直した貸借対照表です。2026年の改定で計画への追加が明示されました。FAQでは、修正方法について特段の定めはなく、算定根拠を示しながら主要金融機関と目線合わせをすることが推奨されています。
計画期間は3年から5年程度が一般的とされています。計画策定後最初の決算時から3年間は伴走支援と協議会への報告が義務づけられているため、少なくとも3年後の決算期までの計画期間が必要です。数値基準(利益をいくら以上にする等)の要件は定められていません。
6. 申請から補助までの流れ
- 金融機関に相談し、事前相談書をもらう(メイン行または準メイン行。金融機関が認定経営革新等支援機関として連名で申請する場合は不要)
- 利用申請:中小企業活性化協議会へ、認定経営革新等支援機関と連名で提出
- 審査・助言:協議会が要件適合を確認し、計画策定の留意事項を説明
- 通知・承諾:協議会が支援機関に業務を委嘱し、支援機関が承諾書を提出(この承諾日以降に発生した費用が補助の対象)
- 計画の策定:第5章の書類を作成し、計画案を協議会に提出して助言を受ける
- 金融機関へ提出:事前相談書を出した金融機関に計画を提出し、受取書等をもらう
- 費用支払申請:自己負担分(3分の1)を振込で支払い、その証憑とともに連名で申請
- 伴走支援(3年間・年最低2回):実施状況を金融機関と共有し、協議会へ報告。伴走支援費用の支払申請を行う
利用申請時に必要な書類(手引きより)
- 早期経営改善計画策定支援事業利用申請書(別紙①)
- 申請者の概要(別紙①-1)/業務別見積明細書(別紙①-2)
- 履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)=原本/個人事業主は開業届または確定申告書の写し
- 認定経営革新等支援機関であることを証する認定通知書等の写し
- 認定経営革新等支援機関の見積書および単価表
- 金融機関(メイン行または準メイン行)の事前相談書
- 申請者の直近3年分の申告書の写し
期限のこと
- 制度としての申請期限はありません(随時受付)
- ただし利用申請が受理された日から1年以内に支払申請をしないと、利用申請の受理が失効します
- 伴走支援費用の支払申請は、伴走支援対象期間の最終日から6か月が期限です
7. 2026年の改定で変わったこと
| 項目 | 改定前 | 改定後(現行) |
|---|---|---|
| 計画策定支援費用 | 2/3(上限15万円) | 2/3(上限50万円) |
| 伴走支援費用 | 2/3(上限5万円) +決算期 2/3(上限5万円) |
2/3(上限30万円) |
| 合計 | 25万円 | 80万円 |
| 計画の内容 | — | 実態貸借対照表を追加 |
| 伴走支援 | — | 内容を強化(計画策定後最初の決算時から3年間・年最低2回) |
適用日は支援する側によって分かれています。金融機関を除く支援機関が支援する場合は2026年3月31日、金融機関が支援する場合は2026年5月1日です。後者では、民間金融機関が実施する伴走支援も補助対象に加わりました。
8. 使う前に知っておきたい落とし穴
顧問税理士に頼む場合も、顧問料とは別の契約・別の振込が必要
FAQでは、顧問税理士も外部専門家として関与できるとしたうえで、税務顧問契約の範囲内で行う業務は含められないとしています。別途、早期経営改善計画策定支援に係る業務委託契約を結び、支払申請時にその契約書の写しを提出します。支払も、本事業の費用と特定できる形で行う必要があり、顧問料や決算料での精算は認められません。
- 伴走支援は、補助を申請しない場合も3年間必須です。実施・報告が行われないと、協議会が負担した金額の返還対象になり得ます
- 1回しか使えません。過去に利用した会社は対象外です
- 他の補助金の事業計画づくりには使えません。ものづくり補助金や事業再構築補助金で求められる事業計画を作るために本事業を利用することはできません(一方、本事業で作った計画の内容を他の補助事業の計画に反映させることは禁じられていません)
- 自己負担分を一括前払いはできません。計画策定費用と伴走支援費用を合算した一括前払いは不可。費用ごとの前払い・分割払いは認められています
- 見積総額を超えた費用は対象外です。計画策定費用が見積より下回っても、その余りを伴走支援費用に回すことはできません
- 外部委託はできません。認定経営革新等支援機関以外が行う調査費用等は対象外です
- 登記・契約書作成・M&A仲介手数料・融資手数料・保証料などは対象外です
- 事前相談書は、金融機関が計画策定に関与することや、将来の金融支援を約束するものではありません
9. すでに返済がきつい場合は?(405事業との違い)
早期経営改善計画は「まだ大丈夫だが、先を見ておきたい」段階の制度です。返済条件の変更(リスケジュール)など金融支援を伴う本格的な経営改善が必要な段階では、別制度の経営改善計画策定支援(405事業)が用意されています。
| 比較項目 | 早期経営改善計画策定支援 (Vアップ事業) |
経営改善計画策定支援 (405事業・通常枠) |
|---|---|---|
| 想定する状況 | 資金繰り管理や採算管理など基本的な経営改善が必要な段階 | 金融支援を伴う本格的な経営改善が必要な段階 |
| 金融支援(リスケ等) | 前提としない | 前提とする |
| DD(詳細な調査分析) | 不要 | 必要 |
| 補助率・上限 | 2/3 計画策定50万円+伴走支援30万円 |
2/3 DD・計画策定200万円+伴走支援100万円+金融機関交渉10万円 |
さらに事業再生や廃業に向けて中小版ガイドラインに基づく計画を作る場合は、405事業の中小版GL枠(DD費用等300万円・計画策定支援300万円・伴走支援100万円、いずれも2/3)があります。どの段階にあたるかは、金融機関や協議会と相談して決めるのが確実です。
10. よくある質問
Q. 無借金でも使えますか?
A. 使えます。決済口座を持つ金融機関等から事前相談書の発行があれば利用できます。
Q. 顧問税理士に頼めますか?
A. 頼めます。ただし顧問契約とは別に業務委託契約を結び、顧問料・決算料とは別に支払う必要があります。また、顧問税理士から紹介する場合も、あらかじめ金融機関への説明が必要です。
Q. 何回でも使えますか?
A. 使えません。この制度も405事業も、過去に利用した(実施中を含む)事業者は対象外です。
Q. 申請の締切はいつですか?
A. 制度としての申請期限はなく、随時受付です。ただし利用申請が受理された日から1年以内に支払申請をしないと失効します。
Q. 補助金は会社の口座に振り込まれますか?
A. 振り込まれません。会社が支払うのは自己負担分の3分の1で、残りは協議会が認定経営革新等支援機関へ支払います。
Q. 税金や社会保険料の滞納があると使えませんか?
A. 滞納がある場合でも、当局と相談のうえ解消に向けて取り組んでいる場合等は、対象となる可能性があります。個別に協議会へご確認ください。
Q. 計画を作ったあと、伴走支援を受けないという選択はできますか?
A. できません。伴走支援費用の支払申請の有無にかかわらず、計画策定後最初の決算時から3年間の実施が必須です。
Q. 補助金の申請書(ものづくり補助金など)を作るために使えますか?
A. 使えません。策定の趣旨・目的が異なるため、他の補助事業で求められる事業計画を作るために本事業を利用することはできないとされています。
相談窓口
申請の窓口は、本社・事業所などのある都道府県の中小企業活性化協議会です。支援を依頼する専門家は、中小企業庁の「認定経営革新等支援機関検索システム」で探せます。
藤原淳税理士事務所は認定経営革新等支援機関です。早期経営改善計画の策定と、その後3年間の伴走支援についてご相談を承ります。「金利が上がったときに返済が回るのか試算しておきたい」「銀行に出す資料を整えたい」という段階からで構いませんので、お気軽にお問い合わせください。
参考リンク(一次情報)
【ご利用上の注意】
本記事は本補助制度の一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・申請助言ではありません(本記事の作成日:2026年9月5日/中小企業・小規模事業者の経営者を主な想定読者としています)。公開後に手引き・FAQの改定、運用の変更などが生じる可能性があります。最新情報は、本文掲載の公式情報源(中小企業庁ホームページ・手引き・マニュアル・FAQ)にて必ずご確認ください。また、補助の対象可否・金額は中小企業活性化協議会の判断によります。記事内容に基づく判断・行動により生じた損害について、藤原淳税理士事務所は一切の責任を負いかねます。本制度・関連する税務に関するご相談は当事務所までお問い合わせください。