決算書では利益が出ている。それなのに、通帳の残高は思ったほど増えていない。あるいは、去年より減っている。

この差は、経理の間違いから生まれているわけではありません。多くの場合、会計の仕組みそのものから生まれます。利益は「儲かったかどうか」を測る数字で、預金残高は「今いくら持っているか」を表す数字です。測っているものが違うので、ズレるのが普通なのです。

問題は、ズレていること自体ではなく、どこでズレているのかが分からないまま経営していることです。理由は大きく5つあります。ひとつずつ見ていけば、自分の会社でどれが起きているかは、社長ご自身で判断できます。

1. 売れたのに、まだお金が入っていない

会計では、商品を渡したりサービスを提供したりした時点で売上に計上します。入金があった時点ではありません。この差が売掛金です。

売上が伸びている会社ほど、売掛金も一緒に増えます。増えた分は、利益としては計上されているのに、まだ会社の外にあるお金です。売上が伸びているのに資金繰りが苦しくなる、という現象はここから起きます。

自社で確かめるなら

決算書の売掛金が、前の期と比べていくら増えたかを見てください。増えた金額は、利益に乗っているけれど手元にはないお金です。

詳しく読む → ⑧売上|社長のための簿記入門 / 資金繰りが厳しいのはなぜ?

2. 倉庫にはあるのに、お金がない

仕入れた時点で、お金は出ていきます。しかしそれが費用になるのは、売れたときです。売れ残っているあいだ、その仕入代金は費用ではなく資産(棚卸資産)として決算書に残ります。

つまり在庫とは、お金が形を変えたものです。在庫が増えているとき、会社は「利益は減らさずに、現金だけを減らしている」状態になります。

自社で確かめるなら

期末の在庫高を前の期と比べてください。増えていれば、その差額のぶんだけ現金が在庫に変わっています。

詳しく読む → ⑨仕入|社長のための簿記入門

3. 返済しているのに、経費にならない

借入金を返済するとき、その支払いは元本部分と利息部分に分かれます。経費になるのは利息だけで、元本は費用になりません。

ここが、利益と資金のもっとも大きなズレを生みます。元本の返済は、税金を払ったあとに残ったお金から行うことになるからです。「利益が出ている=返済できる」とは限りません。

返済にあてられる金額の目安は、経常利益から法人税等を引き、そこに減価償却費を戻した額です。減価償却費を足し戻すのは、それが現金の出ていかない費用だからです(理由4)。

自社で確かめるなら

年間の元本返済額と、「経常利益 − 法人税等 + 減価償却費」を並べてみてください。前者が後者を上回っていれば、返済のたびに手元の資金が減っていきます。

詳しく読む → ⑪かんたんな費用編|社長のための簿記入門 / 債務償還年数 / 借入金月商倍率とは

4. 買った機械が、一度に経費にならない

設備や車両の代金は、買ったときに全額が出ていきます。しかし費用としては、原則としてその設備を使う年数に分けて計上します。これが減価償却です。

そのため、買った年は「お金は出たのに、利益はあまり減らない」。逆に、支払いが終わったあとの年は「費用は計上されるのに、お金は出ない」。どちらの年も、利益と資金の動きが逆を向きます。

自社で確かめるなら

その年の設備投資額と、決算書の減価償却費を比べてください。投資額のほうが大きい年は、利益に表れない資金の流出が起きています。

詳しく読む → ⑬ややこしい費用編2|社長のための簿記入門 / ⑫ややこしい費用編1(前払費用)

5. 利益の後から、税金と社会保険が来る

法人税などは、決算を締めてから納めます。社会保険料も、原則として後払いです。つまり利益が出た時期と、それに対応する支払いの時期はずれています。

好調だった期の資金繰りを考えるときは、これから出ていく納税と社会保険の金額を先に見込んでおく必要があります。「今は残高があるから大丈夫」と判断した数か月後に苦しくなる、という順番で起こりがちです。

自社で確かめるなら

資金繰りの予定表に、納税と社会保険の支払月が入っているかを確認してください。入っていなければ、その表は実際より楽観的な数字になっています。

詳しく読む → 利益の後から、税金と社会保険が来る

5つに共通していること

ここまでの5つは、いずれも損益計算書の「利益」を見ていても分かりません。分かるのは貸借対照表のほう、つまり売掛金・在庫・借入金・固定資産の残高です。

逆に言えば、この4つの残高が前の期からどう動いたかを追うだけで、「利益と資金のズレがどこで起きているか」はかなりの部分が説明できます。毎月これを見る習慣がつくと、決算書を見る目が変わります。

順番に読むなら ― 社長のための簿記入門(全15回)

簿記の資格は必要ありません。ただし、上の説明に出てきた言葉(売掛金・棚卸資産・減価償却)が何を指しているかを知っていると、銀行との会話も、自社の決算書の見え方も変わります。1回あたり数分で読める長さで、15回に分けて解説しています。

数字を「使う」段階に進むなら

読み方が分かってきたら、次は自社の数字を並べて、どこを直せばよいかを決める段階です。関連する記事をまとめておきます。

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